難治性不妊症
難治性不妊症
体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されると言われています。そのため、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合、「 難治性(反復)不妊症」であると言えます。難治性不妊治療とは、それを改善するための治療を言います。
難治性不妊症の原因
いくつかの原因があると言われており、
- 着床不全
- 受精卵の問題:着床前遺伝子診断(現在は学会の検査報告待ちとなっています。)
- 子宮内の環境の問題:子宮鏡検査(ポリープ検索以外に子宮内膜炎の診断にも有効です。)
- 受精卵を受け入れる免疫寛容の異常:免疫検査(採血で、Th1/Th2 細胞、Treg.th17、ビタミンD)
これらの内容があげられます。難治性の症例に対して体外受精を成功さるために、当院では以下のような様々なオプションを行っています。
難治性不妊症の治療法
難治性不妊症の治療として、卵子に対する治療法と、身体に対する治療法の大きく2つに分けられます。
卵子に対する治療法
良い受精卵ができない場合、卵子の質を改善する必要があります。それに伴う治療法は以下の通りになります。
⑴ 採卵量を増やす
良好卵は卵子の数が多いと得られ易いので、採卵数が少ない(3個以下など)場合は、より採卵数が多くなる周期のスケジュールを1回目のデータを参考にして計画し、質が改善するか試みます。
⑵ 卵巣刺激周期を変える
卵巣刺激には、大きく4つの方法があります。そのため1度行った方法で良い結果が得られない場合、違う卵巣刺激の方法に変えてみると、結果が改善される可能性があります。例えば、1回目がアンタゴニスト法であれば、アゴニスト法(ロング法やショート法)に変更します。
アンタゴニスト法・・・1番メジャーな方法。ただし卵巣機能が低い⽅、重度の多嚢胞卵巣(PCO)で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが⾼い⼈には⾏いません。アンタゴニストはLHサージを抑え排卵を防ぎます。
アゴニスト法(ロング法)・・・アンタゴニスト法が開発されてからあまり行われていません。卵巣機能の良好な方に向いていますが、多嚢胞卵巣(PCO)で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高い人には使えません。月経中のE2が高い人にはこの方法が適応になります。GnRHアゴニスト(ブセレキュア)の点鼻を月経開始前から長く使い排卵を抑える方法です。
アゴニスト法(ショート法)・・・AMHが低い方や他の方法で良好胚が得られない場合に行います。GnRHアゴニスト(ブセレキュア)の点鼻を使う方法です。ブセレキュアははじめに卵胞を育てる作用があり、使い続けることで排卵を防ぐ作用に変わります。
⑶ 低刺激法にする
年齢が高く、AMHが低い場合、刺激をやたら増やしても卵巣反応が改善しない場合や卵胞は増えない場合があります。その場合、少ない量でクロミッドを内服したり、フェマーラを内服したりして、自分の刺激をメインとして、隔日でHMG注射を追加すると、卵の数が増えて、質が改善することが多いです。
⑷ 注射の種類を変える
通常の注射の誘発剤はFSH、 HMG(FSHとLHが含まれる)の2種類がありますが、ヒトの尿由来であり純粋ではありません。リコンビナントFSH(遺伝子組み換えでつくられたもの)は、単一の遺伝子からつくられており、純粋です。尿由来より高価ですが、卵の数や質が改善する人がいます。
⑸ 前周期から前準備をする
月経開始前に1週間卵胞ホルモンを飲んで、早く育つ卵胞がないようにすると質が改善することが多いです。あるいは2週間から3週間低用量ピルを内服し、確実にリセットが行われるようにしておきます。またはカウフマン療法(通常の排卵周期のように卵胞ホルモンと黄体ホルモンを内服する)を行っておきます。
⑹ トリガーを変える
採卵前の引き金が十分に効いていない症例では、採卵数が少なく、正常受精卵が少なく、胚盤胞ができません。その周期がGnRHアゴニストの点鼻かHCGの注射のいずれかを引き金と
したのであれば、両方を引き金として次回の採卵を行います。
⑺ 卵子活性化を促す
ICSI(顕微授精)で授精を行って胚盤胞ができないのであれば、次回はふりかけ(IVF)で受精を行うか、modified ICSIやカルシウムイオノフォワを用いて卵子の活性化が十分に起こるようにします。
⑻ 新鮮胚移植を検討する
40歳代で良好な胚盤胞ができない場合、新鮮胚移植が有効な場合があります。
⑼ その他
方法を変えても改善が見られない場合は、抗セントロメア抗体などの自己抗体がないか確認します。(ステロイド投与などが有効な場合があります)
上記の方法を用いても3周期から4周期、胚盤胞ができないのであれば、挙児を得る確率は極めて低いと考えます。
身体に対する治療法
身体に問題がある場合、着床不全である場合が多いです。着床不全の定義はないのですが、「一般的に良好な胚を3-4回移植しても妊娠に至らない」ことを着床不全といいます。良好胚を2~3回移植しても妊娠しない場合、着床に問題がある可能性が高いと考えられ、多くの原因は胚にあると考えられます。そうは言っても胚盤胞を何度移植しても妊娠しないとなると、胚の問題だけではないと考えなければなりません。それに伴う治療法は以下の通りになります。
⑴ 内膜日付診のずれ
排卵すると卵巣の黄体から黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。この黄体ホルモンにより子宮内膜が変化していきます。排卵後1週目に胚は子宮の内膜に埋没(着床)します。内膜が胚を受け入れてくれる時期・期間(着床の扉)は限られています。窓は2-3日間しか開いていません。この時期以外に胚が降りてきても着床してくれないのです。この時期は通常は排卵から5日目位です。窓が開いている期間は2-3日程と推察されます。ところが「着床の窓」が開いている時期がずれてしまう人がいるようです。

そのため、排卵後5日目(黄体ホルモン投与後5日目)の子宮内膜を採取して日付診を行って、着床の窓がずれていないか組織学的に診断します。着床の窓にずれがあれば、それを補正して着床し易い日に移植します。反復着床障害の患者さんには、日付のずれを補正して移植し、妊娠、分娩される患者さんが少なからずいらっしゃいます。その他に分子生物学的な検査であるERAがあります。
⑵ 子宮内膜の炎症(慢性子宮内膜炎)
内膜日付診検査の日に慢性子宮内膜炎の検査であるCD138免疫染色検査を同じ検体で行い、慢性子宮内膜炎の有無を確認し、必要があれば治療します。慢性子宮内膜炎があると着床しにくくなり、着床しても流産が多くなります。
⑶ PGT-A(着床前診断)
PGT-Aを行って正常染色体数の胚盤胞を3回移植することで、95%の患者が出産したという報告があります。したがってPGT-A(着床前診断)を行って、移植します。
⑷ 子宮内膜のスクラッチ
反復着床障害の場合は、凍結胚盤胞融解移植周期の子宮内膜厚計測の超音波検査のときに、子宮鏡検査を同時に行い、子宮内膜を2から3方向スクラッチ(引っ掻く)します。反復着床障害に対する移植前周期の内膜スクラッチは効果があるとの論文があります。ただし、最近では反復着床障害以外の患者さんに行っても結果は改善しないとの報告もあります。
⑸ 子宮内膜の全面掻爬(ぜんめんそうは)
原因不明反復着床障害の患者さんに子宮鏡検査を行うと、異常とまでは言えないが、隆起性部位があり、全面掻爬を行うと病理学的に内膜ポリープとの結果が得られ、そのあと妊娠出産される方がいます。超音波検査と子宮鏡で内膜ポリープの疑いが強い場合は、子宮内膜の搔爬を行います。
⑹ 偽閉経療法を行い移植
アメリカの卵子提供の成績のデータでは、卵巣が機能しているレシピエントよりも、卵巣が機能していない閉経した患者さんの成功率が有意に高いです。その理由は分かっていません。原因不明の着床障害の患者さんにGnRHアゴニストを投与し、約2か月間閉経状態にして月経が開始しないまま内膜を作成して移植周期に入ります。
⑺ ガラス化胚盤胞融解移植
筋層内筋腫が内腔に突出している場合や子宮腺筋症がある場合に、GnRHアゴニストやアンタゴニストを投与し、筋腫や腺筋症を小さくしてホルモン補充周期に入るか、全くの自然排卵周期にガラス化胚盤胞融解移植するか検討します。
⑻ HCG子宮内注入
凍結胚盤胞移植周期の黄体ホルモン補充開始3日目から4日目にHCG1000~2500単位を子宮内腔に注入し、内膜の活性化を促し、受精卵に対する拒絶反応を抑制するということを以前から行っていましたが、2019年にHCG子宮内注入は有効であるとの報告がありました。したがって最近では、移植5分から15分前にHCG子宮内注入を行っています。
⑼ 2段階胚盤胞融解移植
ガラス化胚盤胞融解移植する周期に、2段階胚盤胞融解移植を行います。具体的には、D4(黄体ホルモン投与から4日目)にBC,CB,CCの良好ではない胚盤胞を融解移植し、D6(黄体ホルモン投与から6日目)にBB以上の良好胚盤胞を移植します。当院では、あまり行っていません。
⑽ 移植する胚の個数を増やす
以前から移植胚を1個より2個、2個より3個と多く移植する方が出産率が高いという報告があるのと私の臨床経験から、着床の窓に一致した日に胚のグレードに応じて2個から3個移植しています。
⑾ ダクチルを内服する
子宮外妊娠などを繰り返す場合に、筋腫などが原因で、着床期に子宮筋の運動がランダムに活発になる症例があります。子宮筋の運動を抑制するダクチルを移植2日前から10日間内服します。
⑿ 卵管水腫がある場合
卵管水腫があれば移植数日前に水腫を吸引してから移植する、あるいは前もって切除あるいは切断手術を行います。
⒀ SEET法を行う
SEET法とは、内膜の活性化、2段階胚移植を改良したものです。移植の時にエンブリオグルーを使い移植します。(ヒアルロン酸が多く含まれており、より接着性が高いとされています。)移植に先立ってGM-CSFを子宮腔内に注入します。(免疫の活性化のため)
⒁ 子宮内の菌を管理する
EMMA、ALICE検査を行い、ラクトフェリンを内服することで、子宮内の乳酸桿菌を増やしたり、抗生剤を内服し、内膜炎を起こす菌を排除したりします。
EMMA・・・子宮内細菌叢検査、乳酸桿菌の割合を調べること。
ALICE・・・子宮内の内膜炎を起こす菌が子宮腔内にいるか調べること。
⒂ 注射の投与
投与している黄体ホルモン膣錠に、黄体ホルモンの筋肉注射剤あるいは皮下注射剤(輸入)を加えます。膣錠では黄体ホルモンの吸収が不十分な症例があります。黄体ホルモンの吸収が悪いと内膜の機能が悪く、着床の窓が適切な日に発現しないのと、免疫抑制も不十分となります。
⒃ 免疫を抑制する
凍結融解胚盤胞移植2日前から10日間、安全な免疫抑制剤であるタクロリムスを内服します。Tリンパ球の比率、Th1/Th2を測定し受精卵を拒絶しやすい症例に投与します。証明はされていませんが、効果があるとの報告があります。
胚盤胞ができて、内膜が機能していれば必ず妊娠すると考えられます。必要であれば、様々なオプションを活用して早期に出産しましょう。